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今年注目は「ゴジラ」と「3高」 大和証券の吉野氏

 2017年はトランプ氏の米大統領就任や欧米各国における重要な選挙など国内株式市場に影響を与えそうな国際的な出来事が多い。相場の見通しが不透明な中、17年に注目すべき株価指数やアノマリー(経験則)は何か。大和証券の吉野貴晶チーフクオンツアナリストに聞いた。

■日本映画と株価の関係20170113_photo1.jpg

 ――吉野さんは以前、株価とテレビアニメ「サザエさん」の視聴率との関係を指摘したことで有名ですが、17年はどのようなアノマリーに注目していますか。

 「今年は『日本映画』に着目している。かつて映画は不況に強い産業といわれたが、2000年以降は国内の映画館入場者数が増えると日経平均株価が高くなる傾向にある。『ゴジラ』映画に関しては1950年代以降でみても興行収入が過去最高を更新した6作品のうち5作品で翌年の日経平均株価が大幅に上昇した。映画の製作には巨額の費用がかかる。良質な国内映画が供給されるということは、(スポンサーとなる)企業の業績が好調な証拠だ。16年は『シン・ゴジラ』のほか『君の名は。』などの日本映画がヒットしており、過去のアノマリーが17年にも当てはまるのか興味深い」

 ――16年は英国の欧州連合(EU)離脱決定やトランプ氏の米大統領選挙の勝利が、「ゴジラ」並みの衝撃を国内の株式市場に与えました。

 「16年終盤のいわゆる『トランプ・ラリー』による相場上昇が17年に入ってから落ち着き、大統領に就任した後のトランプ氏の実際の政策や実体経済がどうなるか株式市場は様子見の状況になっている。さらに3月に向けて国内株価にはやや不透明感がある。日本株を運用していた中東系の政府系ファンド(SWF)が決算を意識して日本株を売る可能性がある。SWFは債券の代替投資先としてMSCI最小分散指数などで日本株に投資してきたが、16年半ば以降のパフォーマンスは芳しくない」

 「ただ、足元でみると国内企業の業績は好調だ。最近の円安を受けて16年10~12月期決算は改善し、16年度決算見通しは上方修正されるだろう。1ドル=115円程度を前提とすれば17年度決算予想で2ケタ増益を予想する証券アナリストが増えてくる」

■JPX日経400に回帰か

――不透明な要素が多い17年に注目度が高まる株価指数はなんでしょう。

 「3つのタイプの指数に注目している。JPX日経インデックス400、各種の高配当(利回り)指数、そしてESG(指数用語解説)投資向けの指数だ」

20170113_fig1.png 「最近の投資家は値動きの大きい資産に資金を投じる『リスクオン』に振れ、割安株に人気が集まった。一方、JPX日経400の算出が始まった14年以降の動きを東証株価指数(TOPIX)と比べると昨年は良くなかった(グラフ参照)。しかし、景気回復がはっきりしない中では自己資本利益率(ROE)(指数用語解説)が高くコーポレートガバナンス(企業統治)に優れた銘柄を集めた同指数に投資家が回帰するとみている。3月13日から算出が始まる『JPX日経中小型株指数』もポイントだ。JPX日経400で構築した概念を中小型株に適用した新指数の登場でROEやガバナンスに優れた企業に再び注目が集まるだろう」

■金利底ばいなら高配当

 「長期金利はプラスに転じたものの、かといってどんどん上昇する局面でもない。金利が方向感なく(低水準での)横ばい状態が続くなら、配当利回りが高い銘柄を集めた指数に注目したい。例えば、増配を続ける企業を集めたS&Pの『高配当貴族指数』や流動性も高い日本株を対象にしたMSCIの高配当利回り指数などだ。利回りが高いだけでなく、配当の持続性に注目した指数がお勧めだ。日本経済新聞社も配当利回りだけでなく株式の流動性も考慮した『日経平均高配当株50指数』の算出・公表を始めた」

 「3つ目は環境問題や社会、ガバナンスで高い評価を得た企業向けESG(指数用語解説)投資に関連した指数だ。ESG投資は欧米が先行するが、国内でも年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG投資を取り入れる方針を示しており、今年は日本でも普及してくるだろう。労働環境を巡る問題に社会の関心が集まっていることもESG投資を後押ししそうだ」

 ――株価指数に関して17年の課題は何でしょう。

 「米国のように(指数に連動した)上場投資信託(ETF)(指数用語解説)を買う個人投資家が少なく、日経平均やTOPIX以外の多様な株価指数への注目度がまだ低い。一方、年間6兆円をETFに投じる日銀はデフレ脱却の方向が見えない中では購入額を減らしづらいだろう。日銀が人材投資に着目した『MSCI日本株人材設備投資指数』や企業統治を重視するJPX日経400に連動したETFなどの購入をもっと増やせば、国内企業の改革を促し、多様な指数に対する個人投資家の関心を高めることにもつながるのではないか」

(2017年1月13日更新)