今年も残すところ3週間あまり。2016年の国内株式市場は日銀によるマイナス金利政策導入や米大統領選挙など国内外のニュースに翻弄され続けた。過去と比べた16年の株式相場の特徴について、ニッセイ基礎研究所の井出真吾・金融研究部チーフ株式ストラテジストに日経指数で振り返ってもらうとともに17年の見通しについても聞いた。
■グローバル化で変動率上昇
――16年の株式市場の特徴は。
「株価のボラティリティー(変動率)が高かった。12年から算出が始まった日経平均ボラティリティー・インデックス(VI)(指数用語解説)が『30』以上だった日数は57日(12月8日時点)と、『バーナンキ・ショック』があった13年の45日を抜いて最多となったことに象徴される。日経平均VIの30超えは、株式市場の関係者の間で先行き不安が高まってくるシグナルと理解している。40を超えると明らかなショックだ」
「背景には(指数の構成銘柄をまとめて売買できる)上場投資信託(ETF)(指数用語解説)市場の拡大やコンピューターを使った超高速取引(HFT)の増加がありそうだ。商品市場と金融市場の一体化の影響も見逃せない。商品、為替、株式など多資産を機動的に売買するグローバルマクロ型ヘッジファンドに見られるように、投資家が原油先物市場で被った損失を株式市場で取り戻そうとする動きは2000年代前半くらいまでは見られなかった。各国で金融緩和が進み、余ったマネーが世界中を駆け巡り、変動率の上昇につながっている」
■日経平均が5%超動いた日が増加
――株価がニュースに大きく反応する場面が目立ちました。
「『申(さる)酉(とり)騒ぐ』の相場格言どおり、16年は本当に騒がしい申年だった。日経平均株価が1日に5%以上動いた日は6日あった。過去30年間でみると、1986~95年の年平均は1.5日、96~05年は同1.8日、06~15年は同3.1日だったことからみても16年の日経平均の動きが大きかったことがわかる」
「年初から市場を揺るがす出来事が相次いだ。1月には欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が追加金融緩和の可能性を示唆し日経平均が900円以上上げた。同月末に日銀がマイナス金利政策導入を決め、2月に長期金利が国内初のマイナスとなると円が急騰して株価は大きく下げた。12日には1万5000円を割り込んで日経平均採用銘柄から算出する株価純資産倍率(PBR)(指数用語解説)は(加重平均ベース)目安となる1倍を下回った。しかし、ドイツ銀行の経営不安が後退した15日には1000円以上上げるなど2月は激しい値動きだった」
「3~4月は大手商社の減損処理などがあったものの相場は低調ながら落ちついていた。全体として堅調だった決算発表やトヨタ自動車など主要企業の自社株買いの発表を受け5月には1万7000円台を回復した。6月に英国が国民投票で欧州連合(EU)離脱(Brexit)を決定したことは衝撃的で24日の下げ幅は1200円を超えた。その後は円高が進んで企業業績が下方修正されることが警戒され、なかなか1万7000円台を回復できなかった」
■企業業績への安心感広がる
――海外市場と国内市場を比較する上で注目する数値は。
「日経平均採用銘柄の加重平均ベースの株価収益率(PER)(指数用語解説)を目安にしている。指数ウエートベースのPERではないが、米S&P500種株価指数など海外指数のPERと比べるのに便利で、経験的にほぼ14~16倍に収まる。Brexit以降のPERは14倍近くで推移し、国際的にみても日本株は割安だった。10月に入ると1ドル=100円台前半の円高にもかかわらず14倍を上回った。企業の中間決算発表を受けて業績不安が後退し、少々の円高なら跳ね返す力があると市場が評価した。ドナルド・トランプ氏が大統領選挙に勝利した11月9日に900円以上下落しながら、翌10日に1000円を超す上昇を記録した。円安と相まって進んだトランプ・ラリーが注目されるが、ベースには企業業績への安心感があった」
――日本企業の自己資本利益率(ROE)は伸び悩んでいます。
「日本企業全体のROE(指数用語解説)が8%を超えるかどうかに注目している。この水準を上回ると日経平均が上昇しやすくなることは過去のデータが示している。8%を超えれば景色ががらりと変わり、日経平均は2万円を回復するとみている。ただ現実は厳しい。16年度の東証1部上場企業のROE予想は平均7%台にとどまりそうだ。最近の円安傾向による業績回復を織り込んでも8%超えは難しいだろう。日本企業は自社株買いを積極化し(分母の株主資本を減らし)ているが、それだけではROEの上昇は限られる。分子の利益を増やし収益率を高めることが重要だ。価値の高い特許技術を増やした企業は3年後のROEが改善して株価も高くなる傾向にある。企業は研究開発やM&A(合併・買収)に投じて技術力を高めるべきだ」
■上値のメドは1万9500円
――酉年となる17年の日経平均の見通しをどうみますか。
「現在のPERは16倍近辺と上限に近づいているが円相場が1ドル=110円台を維持できれば、業績回復で(PERの分母にあたる)1株あたり利益(EPS)が上昇し、割高水準ではなくなる。17年3月末まで日経平均は1万8000円台を保てるだろうし、115円台なら1万9000円台は難しくないだろう。120円台なら2万円台もありうるが、落ち着きどころとしては1万9500円くらいが17年の日経平均の上値のメドとみている」
「トランプ氏が1月に大統領就任後、一般教書演説などで政権運営の輪郭が見えてくる。市場が期待した大規模なインフラ投資や法人減税がなければ、期待がはがれ落ち円高に振れる。米議会で共和党は上下院とも優勢だが、同党は『小さな政府』を志向するだけに、議会を説得し本当に掲げた政策が実現できるかは未知数。大統領選後に日本株を買い戻したのはヘッジファンドなどの短期筋が中心で、期待が後退すれば売りに転じるのも早い」
――ほかに懸念材料はありますか。
「欧州が株式市場のアキレスけんになる可能性がある。フランス、ドイツ、オランダで重要な国政選挙があり、(EUの金融支援下にある)ギリシャが2月と4月に債務の返済期限を迎える。政治の不安定化でユーロが売られれば、欧州での売上高比率の高い製造業を中心に円高で日本企業の業績が圧迫されるかもしれない」
(2016年12月9日更新)