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変動率指数、日米40超えで「本当の危機」 りそな銀・黒瀬氏

 株式相場の値動きが激しさを増す中、近年注目を集めるようになったのが株価の先行きの変動率を示すボラティリティー・インデックス(VI)(指数用語解説)である。日経平均VIや米国のS&P500種株価指数を対象にしたVIXなどがある。りそな銀行の黒瀬浩一チーフ・マーケット・ストラテジストに、VIが注目されるようになった背景と活用方法を聞いた。

■英国のEU離脱で「危機的な水準」20160708_photo1.jpg

――市場参加者の将来予想を反映する日経平均VIへの関心が高まっています。

 「英国で欧州連合(EU)からの離脱を問う国民投票があった直後の6月24日(日本時間)に日経平均VIは一時40を超えて危機的な水準に達した。国民投票の結果が金融市場に与える影響についてはさほど問題にならないとみる向きもあり、前日までの日経平均VIは30台だった。英国離脱はEU解体の始まりとなり、他にも離脱する国が出てくることが懸念される。起こりうる危機の大きさに対し、(日経平均VIが示した)国内株式市場の織り込みはやや足りなかった」

 「日経平均VIは15年8月にも跳ね上がった。背景には中国人民元切り下げの理由に中国の政権内部の対立があるのではないか、との憶測があった。内部抗争が始まったら中国はまともな経済政策を実施できない。中国経済が悪化するリスクを当時の日経平均VIは織り込んだが、中国の政治対立は深刻化しなかった。今年2月にも50近くまで上昇した。原油価格は1バレル=26ドル台まで下がったが、我々の試算では、原油価格が1バレル=30ドルを下回り、銅やニッケルなど広範な資源価格に波及すると、様々な資源開発案件が破綻し(資金の出し手である)国内金融機関が莫大な損失を被るおそれがあった」

20160708_fig1.jpg 「金融市場で大きな危機につながりそうな出来事があると我々はその重大さを分析し、市場の織り込み具合をVIで確認している。織り込みが不十分であれば市場はショックを受けて株価は下がり、危機を織り込みすぎなら株価は反発すると予想できる」

■金融緩和で「想定外」に反応しやすく

――米国で1990年代から使われてきたVIXは「恐怖指数」とも呼ばれています。近年、注目されるようになったのはなぜでしょう。

 「世界的な金融緩和による金余りで、ネガティブなことがあれば(株価が)大きく下げ、ポジティブなことがあれば大きく上がるようになった。08年のリーマン・ショックの後は特に市場のボラティリティー(変動率)が高まった。米国のVIXは04~07年は比較的安定していたが、リーマン・ショックの時は80を超えた。40を超えたら当局は事態を深刻にとらえて対策を講じなければならないが、米政府はリーマン・ブラザーズを救済しなかった」

 「その他の出来事に米政府はきちんと対応してきた。例えば、01年の同時多発テロは衝撃的な出来事だったが、すぐに対応したため株価の下落期間は11日だった。一方、リーマン・ショックは500日以上におよんだ。VIXが40を超えた時点で起きていることをすべて解決し、金融システムを救済しなければならなかった。米政府はリーマン・ブラザーズが倒産してもたいした影響はないと考えていた。このように、大きなショックに対し政府の対応が十分であるかを判断する尺度としても指数は役に立つ」

20160708_fig2.jpg 「かつては米国のVIXだけを見ていれば、日本も欧州も同じだった。しかし、最近は様相が変わってきた。米国は経済規模が大きく景気循環で日本や欧州の先を行っていたが、中国の台頭で米国の世界金融市場におけるウエートが相対的に下がっている」

 「今や危機の原因は世界中に波及する。日経平均VIだけがたいした理由もないのに40を超えた場合は日本市場の流動性が低いとか、出来高が細っているとかいった市場の内部要因なので長期投資家はあまり気にしなくてよい。一方、日米のVIが同時に40を超えたら本当の危機が迫っていると解釈できる。バブル経済崩壊後の不良債権問題のような日本単独の深刻なリスクは減っている」

 「米国VIXの動きが世界中の状況を反映しているとは限らない。日経平均VIが有意義なのは、国ごとにことなる状況を見ることができるからだ。例えば、15年末から16年初めにかけてVIXはさほど上昇していないが、日経平均VIは大きく上昇した。円高で日本株が下押しされた影響が大きかった」

■個人感覚のずれ修正

――個人投資家はVIをどのように活用すればよいのでしょうか。

 「株式投資は感覚でやってはいけない。人によって危機の受け止め方は異なる。自分の感覚より統計のほうが重要。(VIが示す)数字を過去と比較すれば、危機の深刻さや当局の対策が十分かを知ることができる。例えば、英国がEUを離脱したときに何が起きるかを考える際には英国が92年に欧州通貨制度(EMS)の為替相場メカニズムから離脱したときの状況を参考にできる。VIは金融市場のコンセンサス。個人投資家は自らの見方を修正し、冷静な判断を下すのに役立てればいい」

――自分の感覚とずれて市場が動いたときはどう対応すれば良いのでしょう。

 「投資で難しいのは心の平静を保つことだ。不安心理を増幅する要因に遭遇したらいったん休むことも大事。VIが20~30で落ち着いているのにたいへんなことが起きていると感じるなら、過度に悪材料でないものに反応している証拠だ。VIが正常値であるかをチェックすれば冷静になれる」

――当面のVIの見通しは。

 「米大統領選挙に続き17年は中国指導部の人事を大幅に入れ替える共産党大会や、極右が台頭しつつあるフランスで大統領選挙があるなど(VIの上昇要因になる)市場を取り巻くリスクは出続ける。一方、国内では参院選は日経平均VIが上がる要因にはならないだろうが、万一、年内に衆院選があれば安倍晋三政権の安定性を揺るがしかねない。こうした際、VIを見れば今起きていることを市場が危機ととらえているのか評価できる」

(2016年7月8日更新)