「賢い指数」とも呼ばれる新型の株価指数「スマートベータ」(指数用語解説)が注目を集めている。自己資本比率(ROE)(指数用語解説)や配当の高い銘柄で構成する上場投資信託(ETF)(指数用語解説)などスマートベータに連動する金融商品が増え、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)をはじめ世界中の機関投資家が投資対象に採用しはじめた。スマートベータに詳しい京都大学大学院の加藤康之教授に、注目を集めた背景や金融業界・投資家への影響について聞いた。
■超過収益もたらす多様な要因
――スマートベータとはどんな指数ですか。
「伝統的な株価指数が市場全体の値動きを表す『マーケットベータ』と呼ぶ要因に反応したのに対し、その他の要因にも反応する指数がスマートベータだ。2005年に米国で登場した『ファンダメンタルズ・インデックス』と呼ばれる指数は、時価総額に応じて構成比率を決めるそれまでの指数とは異なり、企業の利益や純資産、配当額で銘柄を加重して算出。従来の株価指数を上回るリターン(収益)を得られるという検証結果が注目された。その後、超過収益をもたらす要因の研究が進み、現在のスマートベータという名前で脚光を浴びるようになった」
「背景には証券アナリストやファンドマネジャーの調査に基づいて有望銘柄に投資し市場平均を上回る投資効果を目指す『アクティブ運用』への失望があった。アクティブ運用は期待された収益に対し運用コストが高い。マーケットベータ以外に超過収益をもたらす様々な要因が存在すると考える理論が定着し、ETF市場の拡大も追い風となりスマートベータに対する需要も増えた」
■問われる運用機関の価値
――金融機関や投資家に与える影響は。
「スマートベータの登場で、アクティブ運用を手がけてきた金融機関は本当の付加価値を提供することが求められる。真の超過収益を見出すことなく、割安株の発掘などで運用成績を確保してきたファンドマネジャーはやがて淘汰され、コストが安いスマートベータに置き換えられる」
「投資家はROEなどに表れる多様な要因に注目して投資するようになり、上場企業はこれらの要因をいっそう意識するようになる。投資家は自分自身がどの要因を求めているのかよく考えてから購入するETFを選ぶべきだ」
――お勧めのスマートベータはありますか。
「スマートベータ(への投資)は短期的には運用益がマイナスになることもあり、個別のスマートベータを勧めることはしない。むしろ、最近注目を集めている環境や社会への配慮、企業統治といった『ESG』(指数用語解説)と呼ばれる要因が果たして超過収益をもたらすのかどうか、といった学問的なテーマには興味がある」
「スマートベータの使い方や投資全体のポートフォリオ(資産配分)におけるスマートベータの位置づけにも関心がある。(機関投資家などのポートフォリオが)市場に連動するパッシブ運用を軸にアクティブ運用を組み合わせて資産を形成する伝統的なポートフォリオの構造から、スマートベータのような多様な要因を重視した構造へと移行するかどうかに注目している」
■長期投資家に意義ある指数
――「JPX日経インデックス400」の算出開始からまもなく3年が経過します。
「JPX日経400もスマートベータの一つ。これまでの推移はおおむね予想通りだ。(JPX日経400の銘柄選定に使われる)ROEは株価に影響を与える要因ではあるが、日本の株式市場では超過収益を生み出す要因ではないことは以前から検証されていた。一方、JPX日経400の加重方法は1銘柄あたりの構成比率に上限をつけたので、市場全体の値動きに見劣りすることはないとも予想していた」
――JPX日経400が登場してから、日本市場ではROEが上昇し、東証1部上場企業の平均は目安となる8%に近づいています。
「JPX日経400は投資家や企業にROEを意識させた。長期的な運用成績の向上に貢献するので長期投資家にとって意義がある。米国のように将来、ROEが日本市場でも超過収益を生み出す要因に転じる可能性もある」
(2016年9月9日更新)