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アジア株、ASEAN成長に期待 藍沢証券の飯田氏

 アジア経済の着実な成長にともない、世界の株式市場におけるアジアの存在感が高まっている。日本経済新聞社は12月からアジアの有力企業約300社を対象にした株価指数「日経アジア300指数」の算出・公表を始める。広大なアジア各地で上場する企業の株価の動きを見る際に注目すべき点はなにか。アジア株式を2000年から取り扱っている藍沢証券の飯田裕康・投資リサーチセンター長に聞いた。

■世界全体の4分の1

 ――世界の株式市場におけるアジアのシェアはどのくらいですか。

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 「15年末時点の日本を除くアジア12カ国・地域の上場企業の時価総額の合計は約1700兆円と世界全体の26%近くを占めた。05年末の10%から大きく伸長しており、過去10年間でアジアの存在感が大きく増したことがわかる。この間、欧州経済は減速し、日本の株式市場のシェアも低下した。アジアが伸びた背景には中国の高い成長力への期待に加えて、アジア経済への影響力が大きい米国で利上げがたびたび先送りになり、アジア域外からの資金が還流したことが挙げられる。15年末の東南アジア諸国連合(ASEAN)経済共同体の設立を機にASEAN各国への成長力期待も強まっている」

■複雑な中国株式市場

 ――15年夏には人民元切り下げを契機に上海株式市場などで株価が乱高下する「チャイナ・ショック」がありました。

 「中国株式市場は複雑だ。香港市場に中国本土の企業として初めて青島ビールが上場したのが1993年。香港ドルで取引できるH株(香港上場の中国本土企業株)は信用度が高い。一方、中国人を対象とする人民元建てのA株を売買する上海株式市場は不透明で閉ざされているという印象。14年11月に上海と香港の相互取引がはじまり、『一物二価』はすぐに解消されていると思われた。しかし、現在も78社が発行するA株とH株の価格には最大で4倍程度の差がある。上海はいまだ実態からかけ離れた投機的な値動きをする市場であるのに、昨夏のように大きく株価が下げるとあたかも世界経済全体が悪化しているような印象を与えてしまう。一方、香港市場は世界経済と中国の2つの影響を受けるため、株価が下落する際の変動幅が大きくなる傾向がある」

 ――中国の個別銘柄の動きはどうでしょう。

 「情報技術(IT)産業拡大の流れのなかで、インターネット大手の騰訊控股(テンセント)や米国上場の電子商取引最大手アリババ集団などの主要銘柄の株価上昇が顕著だ。一方で、株価が低迷する銘柄の代表格がセメント株だろう。国内のインフラ需要の縮小にともないセメントの供給過剰問題が株価を押し下げている」

20161111_photo1.jpg■「世界」に影響されやすいASEAN

 ――ASEANの株式市場はどんな特徴がありますか。

 「インドネシア、シンガポール、タイ、マレーシアの株式市場に上場する銘柄の時価総額はいずれも40兆円程度と中国本土市場(上海、深セン)の15分の1くらい。ベトナムはまだ7兆円程度にすぎない。それぞれの市場規模が小さいので自国経済より米国の金融政策など世界全体のお金の流れに影響を与える出来事に左右されやすい。米国の次期大統領が保護主義を掲げてきたドナルド・トランプ氏に決まったこともあり、米国の経済政策がASEAN各国の株式市場にいかなる影響を及ぼすのか注視していきたい」

■インドネシアとベトナムに注目

 ――特に注目している市場や業種はありますか。

 「インドネシアとベトナムに注目している。インドネシアはジョコ大統領の政権が安定度を増している。16年初めから相次いで実施している金融緩和とインフラ投資など経済政策の効果で景気回復が期待される。インドネシアは石炭を中心とする資源国。中国が大気汚染対策で石炭の生産を抑制しており、石炭価格が安定していることも追い風だ。個別銘柄では複合企業のアストラ・インターナショナルや同国最大の民営病院であるミトラ・クルアガなどが面白い。病院は日本では株式を上場できないが、タイやマレーシアなど東南アジア各国は富裕層を対象にした『メディカル・ツーリズム』に力を入れており、病院を経営する企業には注目している」

 「ベトナムは中国より企業の情報開示が乏しく投資が難しい国だった。しかし、最近は外資に対する投資規制が撤廃されつつある。例えば、乳業大手のベトナム・デイリー・プロダクツ(ビナミルク)は10月、49%までとしていた外国人による株式保有上限を撤廃した。もっとも、ベトナムは通貨ドンがたびたび切り下げられるなど安定に欠ける。日本は円が安くなると株価は上がるが、東南アジア各国では通貨下落は株価の下落につながりやすい点には注意が必要だ」

■指数でアジア株全体を把握

 ――アジアの株式市場を見る際、参考にしている株価指数はありますか。

 「米MSCIのアジア指数などが有名だが、実際に参考にしている指数はなかった。指数の値が(顧客である)個人投資家の目に触れる機会が少なく、指数の値動きより個別企業の株価に注目してきた。日経アジア300指数は日経新聞などのメディアに常時掲載されることで(投資家が)アジア株全体の動きを把握するのに役立つだろう。指数を構成する個別銘柄のニュースや値動きにも注目していきたい」

(2016年11月11日更新)