株式投資の超キホン 日経平均を知ろう!(17)
新型コロナウイルスによる肺炎が急速に世界にまん延し、景気指標にも影響が表れてきました。世界保健機関(WHO)がパンデミック(世界的な流行)と認めたのはほぼ1カ月前の3月11日で、事態は終息の気配がありません。製造業の生産停止や外出自粛によるサービス業の収益悪化など、経済活動は停滞しています。そんな感染拡大の影響と、経済対策や金融政策への期待が入り交じり、2020年3月は日経平均株価にとって歴史的な記録が相次いだ月となりました。
3月を前半と後半に分けて振り返ってみましょう。前半は欧米諸国で新型コロナウイルスの感染者数が急増し、グローバル化が前提の企業活動の根底を揺るがすようになった時期です。株式市場では国内外の株価指数が急落し、9~13日の週に入ると日経平均の下げ幅が連日1000円近くに達するようになりました。
この時期、サウジアラビアの増産が原油価格の急落を招いたことも大幅安の一因です。米国のシェールオイル企業が発行する社債はリスクが高い「低格付け債」とされ、利回りの高さから人気を集めましたが、今回の原油安では収益悪化や経営への不安の連想から投資資金を引き出す動きが広がりました。低格付け債市場全体が崩れる、といったリスクへの警戒が株安につながったのです。産油国が原油安に伴う財政悪化で資産売却に動くとの見方も相場の重荷になりました。
日経平均は9日に1050円99銭安(下げ幅歴代20位)、13日に1128円58銭安(同13位)と急落し、その大きさはバブル経済で相場が大きく崩れ始めた1990年の月次の動きに匹敵しています。この週だけで日経平均はその前の週から3318円70銭安と過去最大の下げ幅を記録しました。
市場の動揺を受け、翌週の初めに日銀は前倒しで金融政策決定会合を開き、上場投資信託(ETF)の購入枠を倍増すると決めました。日本株の買い手の存在が意識され始めると、3月後半にかけて日経平均は次第に底堅さを見せ、23日からの週では連日のように大きく上昇しました。日銀による1日あたりのETF購入額が2000億円を超えたことがわかると、24日には1204円57銭高(歴代10位)、翌25日は1454円28銭高(同5位)と急ピッチで値を戻しました。感染者数が急増した米国で大規模な経済対策が打ち出されることへの期待感も相場を下支えしました。この週の上げ幅は2836円60銭で、週間ベースで過去最大でした。
なお日本経済新聞社の指数公式サイト「日経平均プロフィル」では日経平均の上昇や下落に関する記録を確認いただけます(トップ画面からアーカイブを選ぶと、日次や週次、月次のデータや上昇・下落記録をチェックできます)。
3月は日経平均が1カ月のうちに週間ベースで過去最大の下げ幅と上げ幅を記録する、異例の事態でした。市場参加者がいかに動揺したのかを表すのが前回のこのコラムで紹介した「日経平均ボラティリティー・インデックス(VI)」です。この先の日経平均の値動きの大きさについて、市場がどう見ているのかを示す指数でしたね。30が1つの目安でしたが、アベノミクス以降の上昇基調では20を超えれば不安心理が高まる、と言われてきました。
それが2月最終週から急伸し、16日には終値で60.67まで上昇しました。実に東日本大震災直後の2011年3月17日(67.68)以来の高さです。この指数はリーマン・ショック直後の08年10月31日には92.03という記録をつけていますが、60台に乗せた時期はデータを遡れる1989年6月以降で見ると、バブル経済の頃の90年や米同時多発テロの起きた2001年9月など数えるほどしかありません。日経平均VIを見ても、今の局面は歴史的な出来事が起きているとみることができます。
国境を越えた人やモノの流れが突如寸断され、経済のグローバル化は逆回転し始めています。日本でも緊急事態宣言が出され、未曽有の状況に直面しています。感染拡大が収まらなければ、停滞は長期化し、上場企業の収益にも大きく響きます。日経平均が3月のように乱高下する場面は今後もしばらく続くかもしれません。
(2020年4月10日付日経電子版掲載)