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「除数」で保つ連続性、五輪イヤーに70周年

株式投資の超キホン「日経平均」を知ろう!(6)

2020年といえば、東京オリンピック・パラリンピックが開かれる年ですね。そしてこの年は日経平均株価の算出が始まって70年になる記念すべき年でもあります。株式相場の動きを映す指標として、長い歴史を積み重ねてきましたが、その算出では「指数としての連続性を保つ」という工夫がなされています。

学校の算数の授業で、「平均は合計を個数で割って計算する」と習いました。日経平均もこのコンセプトは生かしていますが、計算方法は単純ではありません。分子と分母のそれぞれを工夫しているのです。

前回説明した分子の工夫では「みなし額面」という言葉を紹介しました。いまは廃止となった額面制度が今も続いている、と想定し、採用銘柄それぞれにかつての額面に当たる「みなし額面」を付与します。採用銘柄には数万円単位の株価をつける銘柄もあれば、数百円程度の株価もあります。これを50円額面に換算し、いわば平準化して各銘柄の株価を合計する、という調整をしています。これが日経平均の算出上の分子になります。

basics6-1.png合計を個数で割るのが平均ですから、225銘柄ある日経平均の場合、株価合計を225で割れば話は簡単です。ところが、実際は「除数」と呼ぶ数値で割っています。

株式市場ではいろいろな見方が交錯し、その結果が株価となって表れます。今なら、米国と中国の貿易摩擦の行方や米国のIT(情報技術)関連企業の収益見通しなどを巡り、その影響を推し量って様々な銘柄が売買され、株価が変動しています。

一方で、株価はこうした売買とは別の要因でも動くことがあります。例えば企業が実施する株式分割や株式併合です。投資家が投資しやすいように企業が実施し、その結果、株式数と見た目の株価は変化します。ただし、これは企業価値そのものを変える動きではありません。株価と株式数をかけ合わせた時価総額すなわち企業価値は変わらないのです。それなのに、見た目の株価の変化が指数算出に影響してしまっては、相場を映し出すものさしとして適切ではなくなってしまいます。その調整を担うのが除数なのです。

話を単純化した例で考えてみましょう。A社の株価が800円、B社は1000円、C社は1800円とします。いずれもみなし額面は50円です。3銘柄の株価合計は3600円となり、単純に3で割った平均は1200円です。ただ、ここでC社が1株を1.2株にする株式分割を実施したとしましょう。するとC社の株価は理論上、1500円になると考えられます。改めて算出した3社の株価合計3300円を3で割ると平均値は1100円です。算出に株式分割というテクニカルな要因が影響し、見た目の平均値は下がった、という結果になっています。

市場の動きをきちんと反映するには「株式分割をしても平均値が変わらないように工夫をすること」が重要です。では、平均値が1200円のままにするにはどうすればいいのでしょう。そこで着目するのは分母、すなわち割る数(除数)です。C社の株式分割後の3社株価の合計は3300円でした。C社の株式分割前に算出した平均値1200円を維持するため、割る数は3300÷1200で計算して求めます。すると2.75という数字が出てきます。これが新しい除数となります。株式分割によって、平均を出す際の除数は3から2.75に低下したのです。

basics6-2.png銘柄入れ替えの影響も除数で調整します。先ほどの例でみてみましょう。

株価800円のA社を除外し、代わりにD社が採用銘柄になったとします。D社はみなし額面が50円で、株価はA社より高い2000円と想定します。B社の株価は1000円、C社は1800円でしたから、入れ替えた後の3社の株価合計は4800円となり、単純に3で割れば1600円です。A社、B社、C社の株価合計から割り出した平均値(1200円)から、400円上がりました。ただし、相場が値上がりしたのではなく、入れ替えの影響による上昇にすぎません。平均値を見る人が見誤らないように、割る数(除数)を調整して、入れ替えの影響を取り除きます。この場合なら、入れ替えた後も平均値が1200円を維持するように、4800÷1200=4を割り出し、除数を4とするのです。

最新の除数は日経平均を算出した翌日付の日本経済新聞の証券面にある「クローズアップ日経平均株価」に掲載しています。また日経の指数公式サイト「日経平均プロフィル」のトップ画面で、日経平均の右隣にある「もっと詳しく」をクリックすると、やはり除数を確認できます。

basics6-3.png2018年11月27日現在の除数は26.993です。225からずいぶんかけ離れていますね。算出当初、除数と銘柄数は同じでしたが、約70年の歴史の中で相次ぐ株式分割や銘柄の入れ替えなどによって、長いスパンでみると除数は小さくなってきた、といっていいでしょう。

なお最近では10株を1株に併合する、といった大幅な株式併合をする例が相次いでいます。日経では2005年6月以降、大規模な株式併合や分割の場合、除数ではなくみなし額面の変更で指数の連続性を保つようにしています。

さあ、前回と今回は日経平均の算出方法を詳しくみてきました。日経平均を知る重要なポイントなので、もう一度おさらいします。日経平均は構成銘柄のみなし額面で換算した株価の合計を分子に、そして分母に除数を置いて計算した数字です。相場を見誤ることがないように、株式分割や株式併合、銘柄入れ替えの影響を除く工夫している株価指数なのです。

(2018年12月5日付日経電子版掲載)