50

単純平均となぜ違う? 「額面」で算出を工夫

■株式投資の超キホン「日経平均」を知ろう!(5)

10月以降、日経平均株価の変動が大きくなっています。特に1日に500円を超えて下げる日が目立つようになってきました。米中の貿易摩擦は依然として収束の気配がありません。決算シーズンを迎え、米中両国が繰り出した追加関税の負担や中国の景気減速などが企業収益に影響を及ぼす現実味を投資家が敏感に感じ取っているからなのでしょう。日本を代表する企業に対しても同じように警戒感が広がっており、日経平均に採用している225社の株価は総じて軟調になっています。

さて、新聞やテレビのニュースで何気なく耳にしている日経平均の値動きですが、実際にはどうやって算出しているのでしょう。「ああなるほど、『平均株価』ということは225社の株価を合計して225で割った平均を出しているわけか」と思う人は多いかもしれません。

日経平均が前の日から822円下げた10月25日の採用銘柄で平均を出してみます。225銘柄の終値を単純合算すると75万518円(小数点以下切り捨て)になるので、これを225で割ると3335円(同)という結果でした。でも、実際の日経平均の当日終値は2万1268円であり、学校で習った「平均の計算式」による計算結果と数字が合いません。なぜでしょう。実はこの点は日経平均を理解するうえでとても重要なポイントなのです。

以前、お話しましたが、日経平均は日本がまだ占領下にあった1950年から算出を開始した歴史ある株価指数です。必要に応じ、採用銘柄を入れ替えてきました。でも、例えば株価が数百円の銘柄を外し、万円単位の株価をつけている銘柄を採用しただけで日経平均が上昇してしまったら、株価指数として適切ではなくなってしまいます。

basics5-1.jpgまた多くの企業は投資しやすさを意識して「株式分割」や「株式併合」を実施するようになっています。株価自体は変化しますが、時価総額は変わりません。すなわち会社そのものの価値は変わっていないわけです。市況の要因ではなく、テクニカルな理由による株価の変化が指数に影響を及ぼしてしまうのは好ましくないと言えるでしょう。

こうした点を踏まえ、日経平均は算出にあたって必要な調整を加えています。まずは「日経平均は単純な平均の計算ではなく、工夫して算出している指数なのだな」と覚えておきましょう。

平均の計算は合計を個数で割って出しますよね。日経平均の算出はこのコンセプトを生かし、分子と分母をそれぞれ工夫して計算しています。分子に当たる部分を採用銘柄の株価の単純合計、とすると、先ほど説明したような悪影響が出てしまいます。そこで、株価合計は「みなし額面」をベースに算出します。

みなし額面?何だか話が小難しくなってきましたね。

皆さんは額面って聞いたことがありますか。2001年の商法改正まで各社の株式にはだいたい額面がありました。株式を発行して会社を作るとき、株券には1株あたりの金額が書かれ、これが額面でした。額面50円なら、1株につき投資家は50円を払って設立を支援した、というわけです。こうした額面は各社によってばらばらで、20円もあれば5万円といった例もありました。

現在、額面制度は廃止となっています。しかし、日経平均の算出では、現在も採用銘柄にそれぞれ額面があると「みなし」、数値を出しています。いま、制度上の額面はないけれども、日経平均を算出する世界では各採用銘柄に額面ならぬ「みなし額面」がある、というわけです。

「なぜこんなややこしいことをするの」って思いますよね。もう少し、額面制度のころの話を続けます。

basics5-2.jpg取引所で株式を売買するときの最低株数(売買単位)との関連で、額面と売買単位を掛け算した結果は5万円にする、という規定がありました。額面は企業によって50円もあれば5万円もあるなどばらばらで、売買単位も額面50円の銘柄なら1000株、5万円なら1株でした。上場している企業の株式を売買する単位が額面によって決まっていた、と言ってもいいでしょう。

日経平均は割り算で算出している、と言いましたが、分子の「株価合計」では高い額面の銘柄を採用するだけで指数に影響が出ないように、額面50円に換算して算出していました。仮に額面5万円の銘柄Aの株価が100万円だったとします。Aの株価が指数算出に影響しないように、額面50円に換算し、Aの株価を1000円として計算するのです。

どうしてこのような計算をするのでしょう。これはある文房具屋さんで鉛筆を買うときの例で考えてみます。店頭に1本60円でばら売りしている鉛筆と1ダース360円の鉛筆セットがあった場合、支払う金額が高いのは鉛筆セットですよね。ただ鉛筆1本あたり、という本質論を考えると、1ダースのセットは1本30円なので、ばら売りが高い、ということになります。額面50円での換算もこの考え方をベースに、見た目の株価で算出するのではなく、各採用銘柄の株価を一定水準にそろえて計算するのです。

basics5-3.jpg額面50円に換算して計算する方法は額面制度を廃止した後も、今日まで引き継ぎ、日本経済新聞社は採用銘柄それぞれに額面を付しています。例えばトヨタ自動車のみなし額面は50円、東京電力ホールディングスは500円といった具合です。そこから各銘柄の額面を50円として株価を算定し、その合計を使って日経平均株価を計算しています。

採用銘柄の最新のみなし額面リストは「日経平均プロフィル」のトップ画面で「もっと詳しく」を選択すると、関連データのコーナーで入手できます(「みなし額面一覧(CSV)」をクリックするとエクセルファイルが立ち上がります)。

今回、日経平均は割り算であり、「分子は現在も各採用銘柄に額面があるとみなし、それをもとにした各社の株価を合計した数値である」というところまで説明しました。次回も算出方法のお話を続けます。

(2018年11月1日付日経電子版掲載)