1950.9.7

戦後経済の浮き沈み 225銘柄で歴史刻む

■株式投資の超キホン「日経平均」を知ろう!(1)

「きょう日本の株は上がったの?それとも下がったの?」株価の動きを知りたいとき、ものさしのひとつになるのが「日経平均株価」です。ニュース番組で、キャスターが「きょうの株式市場の値動き」として、日経平均の動向を伝えるのを見たことがある人は多いでしょう。国内だけではありません。実は海外でも「Nikkei225」として知名度が高く、日本の株価動向を示す代表的な指数と受け止められています。日経平均を知れば、皆さんの株式投資に役立つヒントがあるかもしれません。これから探ってみましょう。

東京証券取引所(東証)では月曜日から金曜日までの午前9時に株式の取引が始まります。午前11時30分から1時間の昼休みをはさみ、午後は12時30分から3時まで売買が続きます。土曜日と日曜日、祝日はお休みです。日経平均は東証1部に上場する代表的な225銘柄で算出していて、取引時間中は5秒間隔で更新されます。相場が大きく動いた日、テレビのニュースで刻々と変化する株価ボードを大写しにした場面を見たことがある人は多いかもしれませんね。

日経平均を算出しているのは、日経の名が示すとおり、日本経済新聞社です。225銘柄の選択や指数の算出方法に工夫を凝らした「日経の著作物」なのです。ただ、もともとは日経ではなく東証が戦後、まだ日本が占領下にあった1950年9月7日に算出を始めた株価指数にルーツがあります。取引所での株式売買は戦争時に停止しましたが、その後49年5月16日に再開しました。東証はその時点にさかのぼり、その日の構成銘柄の単純平均である176円21銭を起点にした指数を算出しました。これが「東証株価平均」「東証修正平均株価」などと名前を変えながら、スターリン・ショック、証券恐慌といった出来事を反映していったのです。

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転機は68年11月に訪れました。東証が修正平均株価の算出をやめ、新しい株価指数を導入すると発表したのです。それが69年7月に始まったTOPIX(東証株価指数)です。こちらも皆さんはきっとニュースなどでなじみがありますよね。企業の価値をはかる指標として、株価に発行済み株式数をかけて計算する「時価総額」がありますが、TOPIXの算出では東証1部に上場する国内の普通株全ての時価総額をベースにしています。

ただ、すでに算出から20年近くがたち、当時の人々に浸透していた修正平均株価の「引退」を惜しむ声は証券業界を中心に根強かったようです。当時の新聞報道は「投資家に親しまれた指数だけに廃止反対論が多い」と伝えています。こうした事情もあって東証はTOPIXの公表を始めた後も修正平均株価をしばらく発表していましたが、71年7月から日本短波放送(現在の日経ラジオ社)が引き継ぎ、「NSB225種修正平均」と名称を変えて算出するようになりました。

basics1-2.pngその後、75年に日経が米ダウ・ジョーンズ社と提携し、ダウの名称などの独占権を取得して「日経ダウ平均株価」として算出を引き継ぎました。76年に編さんされた「日本経済新聞社百年史」によれば、日経の名前をつけた株価指数の公表は「経済の総合情報機関を目指す本社の長年の念願」とあります。米英の有力経済紙が代表的な株価指数を扱っていたことも意識していました。いまの「日経平均株価」という呼び方は85年からです。ベテランの証券関係者や投資家の中には、今でも日経平均を「ダウ」と呼ぶ人が少なくないようですね。

先ほど、日経平均は東証1部の代表的な225銘柄で算出している、というお話をしました。「平均だから225社の株価の合計を225で割った数字なんでしょ」と考える人がいるかもしれませんが、そう単純ではなく、実際は必要な調整を加えています。

例えば日経平均に採用する銘柄は定期的に見直し、必要に応じて入れ替えています。入れ替えた銘柄と前の銘柄の株価はそもそも同じではありません。入れ替えた後も単に株価の合計を225で割ってしまうと、銘柄を入れ替えた影響が指数に及んでしまいます。日経平均は指数として重要な「連続性」を保つために、実は工夫して算出しているのです。

ほかにも調整が必要なケースがあります。例えば企業が1株を2株にするような「株式分割」をすれば、株価は半分になりますが、時価総額は変わりませんよね。2株を1株にする「株式併合」ならばその逆で株価は2倍になります。このように会社そのものの価値が変わっていないのに株価が変わる、ということがよく起こりますが、日経平均はこうした影響は取り除く、という考え方で算出しています。こうした工夫はまた改めて詳しく説明しますね。

日経平均は市場を代表する225銘柄で構成します。ちょうどサッカーのワールドカップ(W杯)で言うなら、ピッチに並ぶ、選ばれた「代表選手」といったイメージに近いかもしれません。取引の活発さや業種のバランスなど、一定の基準に照らして代表に選ばれていて、定期的に見直しています。新顔は日本郵政とリクルートホールディングスで、2017年10月に採用銘柄になりました。

basics1-3.pngニクソン・ショックや石油危機、ブラックマンデー、バブル経済......。日経平均は世界経済を揺るがした出来事の映し鏡として、歴史を刻んできました。まさに戦後の経済史を数字で語っているのです。最高値はバブル経済の真っ只中だった1989年12月29日の3万8915円87銭です。一方、バブル後の最安値はリーマン・ショック後、世界的な景気悪化への警戒感が広がっていた2009年3月10日の7054円98銭でした。

そして今はアベノミクス相場とトランプ相場を受け、株価は2万2000円台に乗せています。今年はやや足踏みをしていますが、値動きをグラフにした「チャート」をながめると、ほぼ26年ぶりの水準まで戻ってきたのが分かります。日経平均のチャートが描く曲線から規則性をつかみ、売買のタイミングをはかろうと分析する人も国内外に数多くいます。

日経は17年12月、成長著しいアジア諸国・地域の株価動向を示す新しい指数を公表し始めました。投資信託のような金融商品で運用しやすいようにアジアの300銘柄を選んだ「日経アジア300インベスタブル指数」です。投資家層が広がるにつれて、株価指数の利用は拡大しています。この連載では日経平均を中心に、こうした新しい株価指数も含めて、株式投資の理解に役立つお話をしていこうと思います。

日経平均の詳しいデータは「日経平均プロフィル」で確認できます。

(2018年6月29日付日経電子版掲載)